

FIDRは、ネパール東部のソルクンブ郡とオカルドゥンガ郡の山岳地で、住民の農業生産力の向上と収入の安定、衛生行動や学習環境の改善に取り組んでいます。
プロジェクト地では、2月24日〜3月10日にかけて、ベースライン調査が行われました。
ベースライン調査とは、プロジェクト効果を測るための基点となるデータを収集・分析することです。そこで得られた結果をプロジェクト実施後と比較し、客観的に評価することができるようになります。
調査方法は様々ですが、今回はサンプリング調査を行いました。全世帯を訪問するのは、膨大な手間と時間がかかるためです。2村合わせて6,042世帯から、約1割にあたる656世帯を標本抽出しました。
抽出後は、スタッフが一軒一軒を歩いて訪問し、住民に、19ページにわたる質問票に回答してもらいました。
質問項目は、家族構成、生計状況、健康状態、学歴などです。日本の国勢調査に近いイメージですが、それよりも詳しい質問が設定されています。
調査開始に当たっては、様々な準備が必要でした。
まず、調査員(=パートナーNGO職員8名)に対して、調査に関する研修を行いました。調査や質問票に関する理解を深め、インタビュースキルの向上を目指すものでした。
また、地元行政に正確な名簿や地図がなかったため、FIDRは住民と協力して、住民名簿と住宅地図を作成しました。
こうした共同作業を通じて、現地の人々との信頼関係が築かれていきます。
名簿と地図は1枚1枚手書きで作成され、全調査対象世帯分の住民名簿と41枚の住宅地図が、ようやく完成しました。
名簿と地図ができたら、今度は全世帯分、合計12,464ページにもなる質問票を印刷してから、いよいよ各世帯訪問・質問開始です。
この調査によって集めたデータを統計分析することで、地域の実情が明確な数値として把握できるようになります。これからの取り組みによってその数値に確実な変化が得られるよう、FIDRは日々の活動に励んでまいります。
FIDRが地域開発に取り組むソルクンブ郡とオカルドゥンガ郡では、雨の少ない乾季(10月〜5月)の間、水不足で農作物が育てられないことが課題です。水不足を解決するために、FIDRは住民の方々とため池づくりを進めており、農業用水が確保できる地域も増えてきました。
ところが、ため池を作れば安心かと言えばそうではありません。乾季の大部分は冬。現在活動を進めている2つの村の標高は1,000m~3,000mで、最も寒い時期になると日中は平均15〜25℃ほどありますが、朝晩は平均1〜10℃ほどになります。冷気や強風にさらされ、農作物の育ちが悪くなることも珍しくありません。そこでFIDRは、トンネル栽培の普及にも取り組んでいます。
トンネル栽培とは、作物を植えた部分の土をトンネル状にビニールなどで覆う「トンネルハウス」を設置することで、保温状態を維持しながら農作物を栽培する方法です。
ビニールハウス栽培と同様ですが、比較的小型でコストが抑えられると言われています。
トンネルハウスには、ビニールの端を土に埋め込むクローズドタイプと、端が開いているオープンタイプがあります。一部がクローズド、一部がオープン、というタイプもあります。どのタイプにするかは、野菜の品種と地理的状況(標高・気温・風等)により、各家庭で判断しています。
例えば、標高が高く気温の低いエリアでは、保温効果を求めてクローズドタイプ。強風の影響を強く受ける場所に住む人は、骨組みの高さを低めに抑えたクローズドタイプ。
背が高く成長する野菜を育てる場合はオープンタイプ、、、などです。
ため池づくりと同様にトンネルハウスも、FIDRは作り方を指導しますが、実際に作るのは住民の方々です。近隣の農家でグループを作り、協力しあいながら、地元の竹などを使ってハウスの骨組みを作り、そこにプラスチックシートをかぶせてハウスを完成させます。
2023年1月下旬までに、ソルクンブ郡で82個、オカルドゥンガ郡で53個のトンネルハウスが完成しました。自分たちで協力して作った思い入れがあるからか、どのトンネルハウスもよく管理されています。
ハウスでは、トマト、キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ニンニク、カリフラワーなどの野菜、チリやコリアンダーなどのスパイス、豆、ブドウなどが栽培されています。
冬でもトマトが栽培できる!ということで、人々はこぞってトマトのトンネル栽培に挑戦しています。すでに800sものトマトを収穫し、地元の市場で販売して収入を得た農家グループもあります。
トンネル栽培により、プロジェクト地では年間を通して様々な農作物の収穫が可能になります。各家庭の食卓も、生活も、豊かになっていくことが大きく期待されます。
FIDRは、ネパールのソルクンブ郡とオカルドゥンガ郡で、地域総合開発プロジェクトを実施し、衛生、食料、教育などの問題の解決に取り組んでいます。
これらの郡で、住民の方々にとって最も身近な医療機関は、保健ポスト(診療所)です。保健ポストには医療補助員(医師や看護師に代わり診療や傷の処置を行う職員で、医師が不足しているネパールでは大変重要な役割を担っています)が常駐し、病気の診断や簡単な処置が行われています。産科のある保健ポストでは、分娩の介助や乳幼児の健診も行われています。身近な医療のよりどころでありながら設備や機器が不足しているため、適切な治療を求めて、やむを得ず、高額な医療費が必要な遠方の病院にかかる人もいます。
このような問題の解決に向けてFIDRは、両郡合わせて14ある保健ポストのうち、まず8箇所に医療器具と備品を支援しました。
昨年末から年始にかけて、手術用手袋、体重計、体温計、血圧計、乳児用聴診器、産科用洗濯機、冷蔵庫など、計25種類の医療器具を届けました。
これらの医療器具や備品を活用することで、より正確な症状の診断、衛生的な環境での適切な治療、妊婦や乳幼児のケアなどが可能になります。また、地域の人々が抱く、病気などへの不安の軽減にもつながります。
医療器具・備品を受け取った地域の代表者たちからは、次のような喜びの声が上がりました。
「医療器具をいただけて、とても嬉しいです。特に女性や子ども、慢性的な病気の患者のケアが可能になります。FIDRに心から感謝したいです」
「今回いただいた洗濯機で赤ちゃんとお母さんの衣服を洗って、清潔な衣服を着てもらうことができます」
「いただいた冷蔵庫にワクチンを安全に保管できるので、子どもたちに定期的なワクチン接種を実施することができます」
「このような器具は、自分たちの力ではとても購入できませんでした。本当にありがとうございます」
今回届けた医療器具のうち血圧計と血糖値測定器は、今月よりソルクンブ郡で開始した、高齢者を対象とした二か月に一回の訪問診療で早速役立てられています。
今後はさらに、6箇所の保健ポストに医療器具・備品を届ける予定です。
医療のよりどころが、住民にとってより安心できる場となるよう、FIDRはこれからも支援を続けてまいります。
FIDRネパール事務所は、当プロジェクトに携わっているチーム全員を対象として、「参加型開発」をテーマにスタッフ研修を開催しました。
当プロジェクトもそうなのですが、地域総合開発プロジェクトは一般的に対象地が広大で、スタッフ一人当たりの担当範囲が広いのが特徴です。そのため、プロジェクトに携わる一人ひとりが地域総合開発や参加型開発について正しく理解し、かつ実践できるファシリテーターであることが求められます。
そこで、参加型開発の考え方及び実践のためのスキル、ファシリテーターとして持つべき姿勢・振る舞い方を全員で学び、共通理解を持つことを目指し、参加型開発の第一人者を講師に迎え、この度研修を開催しました。
5日間、毎日朝から晩までというタフなスケジュールではありましたが、新しいチームの土台をつくる、非常に充実した機会となりました。
参加したプロジェクトマネージャー、グン・ビル・ネワール職員より:
研修の主な目的は、「地域の人々主導の参加型開発」などの重要な概念を学ぶことや、参加型開発を行うためのツールやスキルを学ぶことでした。プロジェクトにとても役立つ、ファシリテーターとしてのかかわり方を興味深く学ぶことができました。
例えば、貧しい人が”なぜ私は貧しいのか”と考えたその日から貧困削減は始まるので、私たちファシリテーターは「”考えること”をサポートする」役割を担うのが重要だということ。また、私たちは知らず知らずのうちに弱者を責めてしまうことがある――つまり、貧しいことそれ自体、あるいは、怪我をして収入が得られなくなってしまったことをその人のせいにするなど、時に意図せずにその人を責めるようなかたちになってしまうことがあるので、言葉を発する前によく考える必要があるということ。さらに、人は気付いて初めて行動を変えることができるので、説明して相手に頭で理解してもらうだけでなく、気付いてもらえるように働きかけていくことが重要である、ということなどを学びました。
プロジェクトマネージャーとして、今回の研修を、自らの知識、スキル、振る舞いをより向上させていくための絶好の機会と捉え、地域総合開発プロジェクトを成功させるという私の使命をこれからも全うしていきます。
FIDRは、ネパール地域総合開発プロジェクトでの取り組みの一つとして、子どもの学習環境の改善をおこなっています。
プロジェクト地であるソルクンブ郡とオカルドゥンガ郡の住民は、郷土愛が強く、コミュニティの発展に自ら取り組みたいという熱意を持っており、子どもの教育にも熱心です。しかし、首都から遠く離れた両郡、特に山深い村には、行政の施策も外国からの支援も行き届きにくい状況です。そのため、特に公立学校の多くでは、校舎が古くなり、教具や教材も不足しており、授業も一方的な知識の伝達に留まっているという課題があります。
そこで本プロジェクトでは、子どもたちが快適な環境で、意欲的かつ主体的に学ぶことができるよう、まずは学校施設の修繕や、机や椅子などの用具づくりに取り組み始めました。
各地域の事情に合わせ、住民や地域の職人などが作業を行っています。
塗装が剥がれてコンクリートむき出しになっていた校舎ですが、壁はクリーム色に、窓やドアの部分は茶色や青色に、きれいに塗り直されました。
木材を組み合わせて、一つ一つ机や椅子、本棚などが作られ、赤茶色にきれいに塗られました。これらは教室で、子どもたちや先生が使う予定です。
これら学習環境改善の活動は、プロジェクト対象地域にある約70の公立学校のうち、FIDRが支援の必要性が高いと判断した36校が対象です。そのうち、今年度は9校で作業を進めています。
今後は他校でも施設の修繕や用具の整備を進めていくとともに、授業の改善や教科外活動などにも取り組む予定です。
2022年2月に活動を開始したネパール地域総合開発プロジェクト。FIDRはネパール東部のソルクンブ郡とオカルドゥンガ郡の山岳地で、子どもたちが健康に育つことのできるコミュニティーづくりのため、住民の農業生産力の向上と収入の安定、衛生行動や学習環境の改善に取り組んでいます。そのうちの活動の1つが、農業用のため池づくりです。
なぜ、FIDRはため池づくりを推進するのでしょうか?
ネパールの山岳地では水不足により、雨季(6〜9月)の間しか十分な農作物を収穫できないことが課題です。山の水源から引いた水と雨水を溜めておく「ため池」を設置することで、乾季の間も農業用水が引けるようになり、1年を通して作物を育て販売できるようになります。年間を通じて農業により収入を得られるようになることで、これまで国外・都市部へ出稼ぎに行ってきた若者たちが村に戻り、地域全体の活性化も期待できます。
ため池づくりを主導するのは、住民の方々です。まず、近隣の農家どうし5~10世帯でグループをつくります。FIDRはため池の作り方を指導し、一部の資材(プラスチックシートとパイプのみ)を提供しますが、それ以外の資材は全て住民が用意し、地面の掘削、ハイプやプラスチックシート、フェンスの設置まで、農家グループが協力して作り上げます。2022年7月現在、両郡で30個のため池が完成しました。
ため池を完成させた農家グループからは、さっそく喜びの声が上がっています。
ある農家の方は「毎週木曜日に地域の大きな市場が開かれるんだ。乾季になったら、ため池から畑に水を引き、キャベツ、トマト、ニンニク、玉ねぎ、トウガラシ、カリフラワーなどを収穫し、そこで売るつもりだよ。そのお金は子どもたちの教育のために使う予定なんだ」と目を輝かせながら、今後の展望を語ってくれました。
「水不足」に限らず、地域の共通課題を解決するためには、住民どうしの協力が欠かせません。ため池づくりは、彼らが協働しながら生活をより良いものにしていくための、第一歩にもなっています。
新型コロナウイルスの感染拡大でネパール国内での行動が大幅に制限される中、FIDR はネパール東部奥地のソルクンブ郡とオカルドゥンガ郡で新しいプロジェクトを行うための調査と計画策定を行い、2022年2月に現地政府よりプロジェクト実施のための承認を得ることができました。
当プロジェクトでは、地域の課題である「衛生的な水の確保」「農業の生産性の低さ、灌漑用水の不足」「学校校舎の老朽化、教具・教材の不足」などを解決するために、幅広い分野で活動を実施していきます。
まずは貯水タンクを設置し、人々の衛生行動の改善を促す活動を行いながら、先行プロジェクトで大きな成果を生んだ農業用ため池の設置を推進します。そして、村の学校施設の修繕などを行い、子どもたちが安心して勉強できる環境を整えていきます。4 年半のプロジェクト期間を通して、この地域がどのように変わっていくのか、これからが楽しみです。