カンボジアのほぼ中央に位置するコンポンチュナン州は、全国24行政区のうち、貧困世帯の割合が2番目に高い地域です。ここでは、5歳未満の子どもの3人に1人は標準体重を大きく下回り、4人に1人は低身長の状態にあります。慢性的な栄養不良がその要因です。
カンボジアは、近年著しい経済的発展を遂げており、国全体での貧困率は、47.8%(2007 年)から13.5%(2014年)へと大幅に低下しています。しかしそれは主に都市部の成長によるもので、首都プノンペンの貧困率は7.0%であるのに対し、農村地域のコンポンチュナン州では貧困率は46.5%となっています。このため農村に暮らす働き盛りの世代は男性女性とも収入を得るために出稼ぎや工場労働に流れていきます。農村は祖父母と子どもが残されて、零細な農業が営まれるしかありません。農村部の子どもが栄養不良に陥っている根本的な原因はここにあります。主要な農作物である米の生産性が低いことに加え、野菜や魚、肉、卵などを手に入れるのも容易ではありません。そして子どもが健康的に育つための栄養についての知識を得る機会もありません。
FIDRは2007年より4年間にわたり、コンポンチュナン州ロレイアッピア郡の5村で試験的なプロジェクトを実施しました。その有効性を確認し、2011年から2016年にかけて同州のロレイアッピア郡とボリボー郡の計5地区39村にて、稲作の増産や野菜栽培・養鶏の導入を進め、食生活の向上と収入増加を実現しました。農村に暮らす人々は出稼ぎや工場での労働に頼らずとも農業で十分に安定した生計を維持することができることに喜びと自信を深めました。並行して、子育て世帯を中心に健康と栄養に関する知識とその実践法の普及を図り、子どもの栄養状態も改善しました。
こうした取り組みが地元の人々の力で続けられ、更に発展していくよう、対象地の5地区それぞれに農民組合を設立しました。リーダーたちの中には、この経験を自分の村だけでなく、他の地域にもぜひ役立てたいという思いを抱くまでになり、コンポンチュナン州政府および農林水産省からもさらなる支援要請がFIDRに寄せられました。これに応えて、FIDRは新たなプロジェクトの展開を企画しました。
プロジェクト対象地域の住民が自らの力で生活状況を改善し、十分かつ栄養のある食事を摂り、良好な健康状態を維持することができるようにします。
カンボジア・コンポンチュナン州ロレイアッピア郡5地区37村、テックポ郡3地区20村、ボリボー郡1地区6村
※農民組合の強化に関する活動のみの受益者:ロレイアッピア郡3地区とボリボー郡1地区、計4地区の住民:23,000人(5,587世帯)
※SRI(System of Rice Intensification)農法とは
稲の品種改良や化学肥料や農薬に頼らずに、高い収穫を実現できる稲の栽培方法。発芽後1~2週間の乳苗を1本程度ずつ広い間隔で植える、田の水位管理を厳密に行い、除草を確実に行うといった作業により稲の生育力を高めることが特徴。従来の栽培法に比べ種籾や水の使用を大幅に減らしつつ、2~3倍の収量が得られるため、多くの開発途上国で導入が進んでいる。
2017年度~2020年度(総事業期間:2011年度~2020年度)