20年間のプロジェクトをふり返って【2】 ~地方における小児外科診療体制の構築~
1996年から、カンボジアで初めての小児外科医療の立ち上げとその発展に取り組んできた「カンボジア小児外科支援プロジェクト」は、2015年度が第4フェーズの最終年度でした。20年の節目を迎え、これまでの取り組みの成果を測るため、外部の専門家によるプロジェクト評価を行いました。その結果、カンボジアにおける小児外科の診療体制が築かれたこと、また、小児外科診療を行う医療従事者の教育体制を整えることができたという成果が認められました。これらの成果と課題について、3回にわたりご報告します。
2回目となる今回は、地方における外科診療体制の構築についてお話しします。
FIDRが首都プノンペンにある国立小児病院(NPH)外科の支援を開始して10年が経過した頃、NPH外科が目覚ましい発展を遂げる一方で、地方における小児外科の遅れが目立っていました。各州の医療拠点である州病院でも、ほとんど小児外科手術が行われていなかったのです。
今回のプロジェクト評価では、FIDRが地方の小児外科診療の発展を目指して行ってきた様々な研修を受けて、州病院の外科および麻酔科職員の知識や技術が向上したことが認められました。
2006年、FIDRは保健省の認可のもと、NPHと共同で、州病院の外科医の小児外科診療技術を向上させるための研修を開始しました。技術を高めた外科医が州病院で子どもの手術を行うためには、適切な小児麻酔の施術が必要です。そこで2011年からは、州病院の麻酔科看護師に対して、小児麻酔に関する研修も始めました。いずれも、NPHの医師や看護師が講師となり、NPHにて州病院の職員に講義や臨床研修の指導を行うものです。
この10年で、18州の州病院の外科医27名および麻酔科看護師27名が、知識と技術を習得し、所属先の州病院に帰任しました。現在では、年間300件を超える小児手術を行えるようになった病院や、先天性奇形をもった新生児患者の手術を行った病院もあり、非常に大きな進歩です。また、研修修了生の働きかけにより、小児患者専用の診察室や術後の小児患者のための病室が設置されるなどした州病院もあります。手術だけではなく、周術期の患者のケアまで考慮できるようになったことは、小児外科の包括的な取り組みが地方にまで浸透してきたことの証です。
一方でプロジェクト評価では、州によっては、外科医や麻酔科看護師が研修で学んだ知識や技術を効果的に発揮できていない場合もあることが指摘されました。的確な診断・治療を行うための技術を地方に定着させるためには、さらなる取り組みが必要であることが明らかとなり、今後の課題としてとらえました。
次回の記事では、「小児外科診療を行う人材を育成する教育体制の構築」についてお話しします。
※写真:小児外科の研修を修了した地方病院の医師(写真左)学んだ技術を活かし診療しています