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ベトナムの山村で、日本の「改善」が役立った ーコントゥム省子どもの栄養改善プロジェクトの6年間ー(その1)

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子どもの栄養不良率が国内で最も高く、子だくさんの最貧省の1つであるベトナム中部のコントゥム省。ここでFIDRが6年にわたって実施してきた「子どもの栄養改善プロジェクト」が総括の時を迎えました。一般的に栄養改善というと、栄養に関する基礎知識の指導や離乳食の実演調理などが行われます。しかし、FIDRのプロジェクトでは、そうした「型」に捉われないところに特徴がありました。

「栄養」より「衛生」だった!

ある日、各家庭を訪問していたところ、驚く光景が目に飛び込んできました。薄暗い台所で地面に無造作に置いてある小鍋。そこに一匹の犬が近づいてきて、あたかも勝手知ったる様子で鍋の蓋を鼻でずらし、中の残飯を食べ始めました。ある程度満足したのか、犬はその場を立ち去りました。するとそこに2歳くらいの子どもがやってきて、なんと犬が食べた後の残飯をわしづかみし、口に運んだのです!
「衛生に関する意識を改善しなくては。いくら栄養価の高い離乳食を作っても、病気になってしまったら意味がない。」 優先的に取り組むべきは、栄養改善よりも衛生改善だったのです。
コントゥム省では、トイレのない家庭が一般的です。また、洗濯や水浴びは、川や井戸まで出かけて行う必要がありました。汚物が感染源となる下痢により、乳幼児は栄養摂取が阻害されたり、免疫力の低さから死亡する確率が高くなったりします。
そこで2013年、FIDRは洗面、洗濯、水浴びもできる「多機能トイレ」の設置を試験的に行い、手を挙げた11世帯が設置に臨みました。このトイレは母親が自由に使える「マザーズ・スペース」と名付けられ、設置した家庭では、綺麗なトイレが使え、手軽に洗濯や水浴びができるようになり、家族はいつも身ぎれいになりました。母親たちは「洗濯の回数も増えて、子どもに清潔な服を着せているわ」と嬉しそうに報告してくれます。設置家庭には見学者が訪れるようになり、評判が広まったことで、マザーズ・スペースの設置家庭数は着実に増加。2018年までに400を超えました。
生活環境の変化は、母親たちの意識の変化につながりました。母親たちは「ちょっとした努力と工夫で、生活環境を大きく変えることができる」ことに気付いたのです。


(写真)内部の様子。水を引き、「室内」で洗濯や水浴び、洗面ができるようになった。使い勝手がよくなるよう、各家庭で工夫している