ロックダウン下のプロジェクト地
村には新型コロナウイルスに関する相談窓口が設けられています
ネパールでは、世界各地での新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月23日からロックダウンが講じられていましたが、6月15日から段階的な緩和が始まりました。しかし、現在、新型コロナウイルス感染者の数が毎日数百人規模で増加しており、7月前半には約15,000人にまで達しています。
FIDRのプロジェクト地においても、各地区に検疫所や隔離施設が設置され、地区政府が対応をしています。これまで確認されている感染者のほとんどは、出稼ぎ先のインドからの帰還者です。陽性患者が隔離施設から逃げ出したケースもあり、村人の中では地区内での感染が拡大するのではないかという懸念が広がっています。
隔離施設の内部の様子
新型コロナウイルスの感染拡大は、プロジェクト地の人々の生活にも大きな影を落としています。ヘルスポスト(村人に一番近い医療施設)では、コロナウイルス患者の治療が優先されているため、感染を恐れて妊婦さんが定期健診に行くことを控えたり、病気になっても診察を受けに行かないなど、必要な人が医療サービスを受けにくくなっています。
生活に困窮する人々も日に日に増えています。ロックダウンにより、建築業、道路工事、日雇い労働、地元のビジネスは中断され、都心部や海外で働いていた村人の多くが職を失いました。彼らは、地元の村に戻らざるを得ませんでしたが、村で生計を立てる手段はありません。
地区政府は、ダリット※を主な対象として、社会的に弱い立場にある人々を対象とした米・石鹸の配布等の救援活動を実施しています。このような政府の支援政策によって助かっている人たちがいる一方で、縁故主義が強いネパールのコミュニティでは、支援が最も必要な人に届かず、有力者の親戚縁者に回ってしまっているという声も聞かれます。
コロナ禍で先が見えない不安に包まれた農村部ですが、6月中旬、モンスーンによる雨は今年もやってきました。村人たちにとっては、例年通り田植えに忙しい日々の始まりです。少しずつ元通りの生活に戻っていけることを願いながら、人々は毎日過ごしています。
田植えは例年通り行われている
※カースト制度における社会階層の最底辺に位置づけられ、いずれのカーストにも属さないとされて差別、迫害を受けてきた人たち。ダリット(Dalit)とは「抑圧された」の意で、当事者グループ自身が用いる呼称。ネパールでは現在カースト差別は法律上禁止されているものの、人々の意識の中に定着している「浄・不浄」の概念や身分階層の意識は根強く残り、差別は今なお残る