一石五鳥をねらえ!…いや一石十鳥だ!~プロジェクトが生み出したもの(その2)~
コロナ禍で市場とつながった見事な連携プレー
2020年春。4年間のプロジェクトの完了まであと数か月という時期に、プロジェクト地にも、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響が及びました。しかし、コロナ禍で明らかになったのは、プロジェクトに参加してきた少数民族の人々が連携する力と、非常時にも機能する物流の仕組みが育っていたことでした。
毎年春は、少数民族カトゥー族の生活文化や豊富な自然を体験できる日帰り観光ツアー「カトゥー族ツアー」に、学生のスタディーツアーや観光客からの申し込みが多く寄せられます。ところが今年は、新型コロナウイルスの影響で、予約が軒並みキャンセルとなりました。カトゥー族ツアーの収入は、同ツアーの運営とナムザン郡全土から集まる特産品の受注を担うナムザン郡協同組合の収入の多くを占めていました。仕方のないこととはいえ、組合の収入が大幅に減少し、それが人々の収入減少にもつながる懸念は拭えませんでした。
3月下旬から事実上のロックダウンに入り、在宅で仕事をしているFIDRベトナム事務所スタッフのもとに、ナムザン郡協同組合から一本の電話が入りました。 「えええ??? 2トンの豆のオーダー?!」
コロナ禍で、食料を備蓄しようとする買いだめの動きはベトナムでも見られました。プロジェクトを通じて卸を始めたダナン市内の農作物販売店が、市内だけではなくハノイ店やホーチミン内数店の注文も集めてくれ、これまでにないほどの量の発注となったのです。
この発注を受けた後、FIDRのスタッフ、ナムザン郡の協同組合や地域を繋ぐ役割をしているコミュニティ・コネクターたちも、一気にスイッチが入ったかのような動きを見せ、多くの村々に声をかけ始めていました。村の人々には、きちんと練習を繰り返してきた通りに異物を取り除き、マメを選別、磨くことを指示し、コネクターたちは、すでに移動制限が発令されており通常のミニバスが使えない中、(こっそりと)レンタカーを手配し、村々でマメを集荷してもらい、(うまく)ダナンに配送という交渉もしました。このような、見事な短時間内での超連携プレーの連続で、納期に無事に間に合わせるという妙技を発揮してくれたのです。FIDRスタッフ全員、「お見事!」という言葉しかでませんでした。
豆2トンの納品を可能にした、山岳地の「ローカル・サプライチェーン」
成功のカギとなったのは、ナムザン郡協同組合とコミュニティ・コネクターの連携の強さと、このプロジェクトで培ってきたナムザン郡の奥地、ラオス国境の村から縦横無尽に蜘蛛の巣のように張り巡らされた、見えないローカル・サプライチェーンの仕組みです。今回のような農作物だけではなく、伝統織物をはじめ、林産物、かご製品、観光受入等々、ナムザン郡が誇る多くの素材を市場と結びつけるために、プロジェクト開始当時から練習して、研修して、50kg、100kg, 300kg…と対応できる量と人数を増やしてきました。その成果がプロジェクト最終年度に発揮できたのです。
豆はこのような形態で、店舗等で販売されます
プロジェクトを統括してきた、ベトナム事務所の大槻所長はこう語ります。 「一連の嬉しいハプニングで、15年以上にわたるナムザン郡での活動を卒業する時がきたなと強く感じました。数年前までは、『時代遅れ』や『不器用な人々』と呼ばれてきた人々が、強みを前面に出し、つながることによってこんなにも力を発揮できることを学ぶことができました。そして、一石二鳥ではなく五鳥、いえ、十鳥が狙えると確信しました。」
これ以外にも、農産物の注文は相次ぎました。結果、2020年は半年で、前年の総売上額を超えていたのです。