変化のストーリー ~マネジメントスキルとリーダーシップスキルの向上をめざして ~ (前編)
マ・ソピアビー
プロジェクト・ファシリテーター(FIDRカンボジア事務所)
これから日本の皆さんにお伝えするのは、FIDRカンボジア事務所の「栄養教育普及プロジェクト」に関わるなかで、私たちのチームが見つけたある校長先生の変化の物語です。
私たちは、コンポンチャム州スライセントー郡で、モデル校4校の教員や生徒と協力し、栄養教育を推進しています。活動を続けるなかで、モンドップ小学校のスァー・ポーン校長先生が、初めの頃と比べて驚くほど成長したことに気がつきました。
校長先生の経歴を簡単にご紹介すると、先生は、1984年から地元の小学校で教え始めました。教壇に立つ一方で、建築建設関連の仕事に携わるビジネスマンとしても働いていました(※カンボジアでは先生の兼業も問題ありません)。そして2013年からはモンドップ小学校で副校長を5年間務めた後、校長に昇格して現在に至ります。
スァー・ポーン校長先生
校長に就任した当初、学校運営の経験が十分ではなく、多くの困難に直面していました。学校保健に関連する教育省のガイドラインや方針については、何も知りませんでした。パソコンのような機器も使いこなせないなど、ICT(情報通信技術)も苦手でした。このような状況から、校長先生は「マネジメントやリーダーシップの才能がない」と感じ、自分には校長職は無理だと思っていました。
ですが、献身的で責任感が強い先生は、校長としての責任を果たすため、「他の先生たちが歩いていたら、校長である私は走らなければならない。常に一歩前に出る必要がある」とひたむきに努力をして、自分を奮い立たせました。
校長就任から1年が経過した2018年後半、モンドップ小学校がFIDRのモデル校の1つに選ばれ、私たちの協力が始まりました。それは、校長先生がこれからの学校運営にまさに必要だと感じていた保健衛生の知識や教材、パソコン技術などを手助けするという、学校を変えていくための「種まき」でした。
校長先生は、以前は大半の仕事を「自分には無理だ」と感じていました。私たちは、活動を通じて、無理だと思っていたことでも多くのやり方や選択肢を見つけられるよう先生をサポートしました。その結果、先生は、思い込んでいた殻を打ち破り、自らのちからで、一歩先へと足を踏み出し始めたのです。
私たちが実施した研修をきっかけに、学校環境改善に向けた取り組みも始まりました。そのなかで教育省が定める国のガイドラインも学び、理想の学校作りが視野に入ってきたことで、徐々に私たちのサポートや助言がなくとも、自ら足を運んでお寺や地域住民の協力を得るなどして、モンドップ小学校を理想の学校に発展させるために力を発揮し始めたのです。
栄養教育を推進するモデル校では、授業の一環として栄養教育を行い、保健教室の設置や学校菜園の整備、ゴミ管理、衛生的な水を利用できる設備の整備が求められます。栄養教育の普及は決して簡単ではなく、校長先生は学校保健科目のような馴染みのない教科を学びながら、学校に変化をもたらす挑戦を続けました。
もちろん、すぐに変化が現れたわけではありません。それでも、スァー・ポーン校長先生の意志は強く、前向きに取り組み続けました。そんな校長先生の姿を見て、モンドップ小学校の教員たちも校長先生の期待に応えようと協力してくれるようになりました。はじめは、保健や栄養について十分な知識がなかった教員たちに、校長先生は、私たちが実施する研修にできるだけ参加するように促しました。その結果、2年後には衛生的な水を活用できる設備が整い、少しずつ保健の授業ができるようになりました。3年後には保健教室の設置と運営が実現し、4年後にはコンポストづくりや学校菜園に取り組むことができるようになりました。
学校菜園での収穫を喜ぶ児童・生徒たち
保健科目の授業の様子