「歩きたい」―青年の願いがかなった瞬間
手術後、歩行器を使って立つ青年
こんにちは、カンボジア小児外科支援プロジェクトのファシリテーターを務めているラタナです。
2019年からFIDRで活動する中で最も印象深く残っている、青年のエピソードを紹介します。
青年は「内反足」という、足が内向きに捻れた状態で生まれてきました。両膝を曲げることができず、歩くことも走ることもできませんでした。
2020 年、彼が19歳の時のこと。クラチェ州病院の外科医等が講師となり、地域の保健センターで保健センタースタッフを対象とした研修を行った際、スタッフの1人が外科医に、青年のことを相談しました。
残念ながらクラチェ州病院では手術ができないため、外科医は、プノンペンにある国立小児病院で手術を受けるよう勧めました。
青年は、国立小児病院でまず片脚の手術を受け、その膝を曲げることができるようになりました。 しかし、もう一方の脚の症状はより複雑だったため、医師から提案されたのは、膝から下を切断するか、あるいは手術を断念するか、という選択肢でした。
手術をしなければ、青年は脚を切断しなくて済みますが、立つ代わりに這って動かなければなりません。一方、手術をして膝から下を切断すれば、松葉杖を使って立って歩くことができるようになる、ということでした。
究極の選択をしなければならない中で、青年が下した決断は、手術、つまり脚の切断でした。「歩きたい」との思いからです。
数回にわたる手術は無事成功し、青年は片脚の膝から下を失った代わりに、松葉杖を使って歩くことができるようになりました。
青年は、たとえ脚の一部を失っても、「歩きたい」という願いがかなったので、とても幸せそうでした。私も自分の仕事を通して、青年の願いをかなえられたことが本当に嬉しかったです。
私はいつも、FIDR職員としての責任や誠実さを大切に、医療機関で患者中心のケアが行われることを目指して活動しています。
内反足の手術を受けたこの青年のように、患者さんたちが幸せで温かい気持ちになれるよう、これからも日々の活動に取り組んでまいります。