「コンレイとプティサエン」(前編)
因幡の白兎、桃太郎、ダイダラボッチなど、日本にはご当地伝説がいくつもあります。カンボジアにも誰もが知っている物語があります。
出張で初めてのコンポンレーン郡を訪れ、その中心部コンポンハウの町でスタッフと共に夕食をとった後でした。夜空の下で川面を渡って来る心地よい風を感じていると、プロジェクトマネージャーのチャンさんは、ここにあるコンレイ山にも伝説があるのですよ、と語り出しました。
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「コンレイとプティサエン」(前編)
FIDRコンポンチュナン事務所からコンレイ山を望む
昔、裕福な暮らしをしている夫婦がいました。子どもがいないことが唯一の悩みでした。ふたりは神様に祈ると次々と娘が生まれ、あわせて12人の姉妹となりました。
ところが家は次第に貧しくなっていきました。
「仕方ない。この子たちは捨てるしかない。」
夫婦は12人の娘たちを山の中に置き去りにしました。
姉妹は悲しみに打ちひしがれながらも野山を歩き回り、食べられる物を見つけて生き延びました。
ある時、池に何匹もの魚を見つけると姉妹は面白半分に魚の両目をつついてつぶしました。でも末娘のパオは、ふと、かわいそうに感じて片目しか傷つけませんでした。
12人はやがて鬼の国にたどり着きました。
鬼の女王サンタメアは、彼女たちを捉えて、自分の幼い娘ニアン・コンレイの養育をさせました。
「あの鬼女のところにいたらいつか喰われてしまうぞ」
末娘パオは出会った老人からそう聞くと、姉たちと一緒に何とか逃げ出しました。
再び野山での生活になった12人が、水浴びをしていたときのことです。その姿を目に留めた人間の国のロタシット王は、彼女たちの美しさにたちまち心を奪われました。
まもなく全員が妃として王宮に迎え入れられ、幸せに暮らしていました。そして一人ひとりが王様との間の子を身ごもりました。
これを聞き知った鬼の女王サンタメアは怒りと嫉妬が沸き上がりました。魔法を使って人間の女性に化身すると、ロタシット王の情愛を独り占めにして、第一王妃の座に就いたのです。そして12人の姉妹は洞窟の牢屋に押し込めてられてしまいました。
それでもさらに姉妹たちを苦しめてやろうと考えたサンタメアは、重い病気のふりをして王様に告げました。
「私の病気は誰にも治せないでしょう。ですが、もし子どもを宿した女性の眼球を使った薬があれば治るに違いありません。」
サンタメアの魔力に操られたロタシット王は、地下牢の12人の姉妹の両方の眼球を抉り出せと部下の兵士に告げ、実行させました。その中で、パオだけは知恵を働かせて片目はもともと見えないから役に立たないと言って、ひとつの目は残しておくことができました。
彼女たちの23個の眼球は鬼の国に隠し置かれました。
目が見えなくなった彼女たちのお腹の子が生まれる時がやってきました。けれども、彼女たちは何も食べるものが無く、何も見えない中で与えられている食事が自分たちの子どもの肉だということも分かりませんでした。パオを除いては。
― 後編へつづく―