コンポンレーン奇観(後編)
(前編はこちら)
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私たちが船着き場にやってきたのは、ホテイアオイを見るためではなく、対岸のコンポンチュナン市に渡るためのフェリーに乗る必要があるからでした。
周りには同じく船を待つ人たちが大勢佇んでいます。
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その視線の先には、故障して動けなくなっている2艘のフェリー。
水面を漂っている水草とはいえ、これだけの量となれば船の推進力を妨げ、エンジンに大きな負荷がかかるでしょう。うち1艘は、動くような動かないような微妙な様子。
あと1艘が航行しているはずですが、こちらの岸にはたどり着いていません。
待てど暮らせど動く気配はない。
ホテイアオイの地平線の向こうに美しい夕日が沈んでいく…。
私たちはいつ帰れるのか。
1時間あまりが経過したころ、動きそうな動かなさそうなフェリーに出発の兆しが。
私たちよりも早くから待っていた乗客が我先にと乗り込んでいきました。出航からほどなく、やっぱりエンジンの具合が悪そうで、ホテイアオイに囲まれて立ち止まってしまいました。
数名のグループは、小舟にバイクも積み込んで、船外機をうならせて漕ぎ出しました。
こちらもほどなくしてホテイアオイに行く手を阻まれ、思うように進みません。対岸までは8㎞ほどの航路です。皆さん無事にたどり着けることを祈るばかりです。
やがて、向こうのほうからもう1艘のフェリーがホテイアオイをかき分けてトコトコやってくるのが見えました。
無事に渡れるといいのだけど
「やっとこれで帰れる」
と思いきや、接岸して乗客が下船しても私たちに乗船の合図はおりません。
この船もまたエンジンがオーバーヒートの様子。船員さんがエンジンを冷やしています。おまけに、対岸から運んできた積み荷の建築資材を下すのに手間取って、さらに乗船が遅くなる気配。
でも、そんな状況でも誰も文句を言うでもなく、いらだちを表す人もいません。そのうち乗れるだろうとのんびりと待っています。まだかまだかと、やきもきしている自分の器の小ささに気づかされます。
日がすっかり沈んだころ、私たちが乗り込んだフェリーが動き出しました。
船着き場を離れてからも延々と続くホテイアオイ。船のライトに照らされた緑の塊をかき分け進むさまは、砕氷船ならぬ砕ホテイアオイ船。
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怪しい空模様に
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にわかに空が禍々しい雲に覆われたと思いきや、バケツをひっくり返したような大雨。この日のダメ押しの災難です。暗闇の中、ホテイアオイに囲まれ、土砂降りの中を私たちが乗った船はゆるゆると進みました。